メーカー技術職のための昇格試験インバスケット

工場の製造ラインを見下ろす通路で、タブレットと書類を持って現場を確かめる技術者

論文なら上司に見てもらう手があり、過去問のようなものも先輩から回ってくる。それでもインバスケットだけは、何をどう答えれば評価されるのか見当がつかない。昇格を控えた技術職がそういう状態にあるとしたら、手が止まっているのはおそらくここです。

学校のテストなら答えがあります。インバスケットには決まった答えがありません。だから準備をしても手応えがなく、時間だけが過ぎていきます。

ただ、手を付ける場所ははっきりしています。営業や総務、お客様への対応といった、自分の持ち場の外の案件です。ここを段取りで捌く練習をすれば、準備はかなり前に進みます。

日本生命保険、キヤノン、川崎重工業、オムロン、積水化学工業、ソニー生命保険、キヤノンマーケティングジャパン、コクヨといった大手企業では、昇進・昇格の選考にインバスケットが取り入れられています。この記事は、そうした会社で等級の昇格試験を控えている技術職の人に向けたものです。

等級の昇格試験とインバスケットはどう関係するのか

大手企業の昇進・昇格の試験で、インバスケットは選考の一つとして使われています。

まず社内の案内を確かめておきましょう。インバスケットがあるなら、何分で何件の案件を扱うのか、論文や面接とどう組み合わせて評価されるのか。この二つが分かれば、準備の量と時間配分を決めることができます。

なぜ技術職ほどつまずくのか

持ち場の外の案件を、段取りで捌く経験が少ないからだと考えています。

インバスケットの資料には、設計や品質の話だけが並ぶわけではありません。取引先からの苦情、総務の手続き、他部署との日程の調整が混ざります。

たとえば設計の担当者が、ふだんの仕事で不具合を見つけたとします。原因を自分で調べ、自分で直す。それで仕事が片付き、評価にもつながります。

ところがインバスケットでは、受ける人は管理職の立場に置かれます。問われるのは、誰に何をさせるかです。営業や総務の案件を前に「どれを選べばいいのか決められない」となるのは、人に段取りを組んで任せた経験が、持ち場の外では特に少ないからです。

足りないのは技術の知識より、段取りの経験です。これは練習で補うことができます。判断の考え方そのものは判断の選び方で整理しています。

持ち場の外の案件をどう捌くのか

業務の知識で正解を出そうとせず、事実を確かめ、担当を決め、期限を切り、上に伝える。この四つの段取りに沿って、誰に何をさせるかを選びます。

営業や総務の案件で詰まるのは、その分野の正しい対応を自分で考えようとするからです。

管理職の判断に、その分野の専門知識は要りません。知らないことは、知っている人に確かめさせればよい。それが管理職の仕事です。

架空の案件で考えてみます。あなたは開発課の課長として、営業課長から次のメールを受け取りました。

「主要な取引先の購買担当から、先月納めた部品の検査記録がまだ届かないと強い苦情がありました。来週の定例会で、取引の見直しを口にするかもしれません。」

ふだん自分で原因を突き止めている人なら、ここで検査記録がなぜ遅れたのかを考え始めるかもしれません。工程のどこで止まったのか、記録の様式に問題があったのか。

しかしそれは、管理職として選ぶことではありません。この案件の判断で、例えば次のような選択肢が並んだとします。

  • 自分が取引先へ謝罪に行く
  • 品質保証の担当者に、遅れている記録の範囲と理由を確かめさせる
  • 営業課長に、取引先へ提出の見通しを伝えさせる
  • 部長に上申する

四つの段取りに当てはめると、選ぶものは次のように決まります。

  1. 事実を確かめる。遅れているのはどの記録で、いつ出すと約束していたのか。それを確かめるのは品質保証の担当者なので、確認させる選択肢を選びます。
  2. 担当を決める。取引先への連絡は営業課長に任せます。自分が謝罪に行く選択肢は、管理職が持ち場の作業を抱え込む形なので選びません。
  3. 期限を意識する。定例会は来週です。分析の段階で、この案件を締め切りの遠い案件より上の順位に置きます。
  4. 上に伝える。取引の見直しにまで話が及んでいて、自分の判断できる範囲を超えます。部長への上申を選びます。

判断はこれで成り立ちます。検査記録の中身については、何も決めていません。それでも、誰が何をするかが決まり、取引先を失うおそれに手が打たれています。

総務の案件でも、型は同じです。「来月の工場見学の受け入れ人数を決めてほしい」と頼まれたら、自分で人数を決める選択肢より、会場の広さと安全上の上限を担当者に確かめさせる選択肢を選びます。自分で人数を言い当てる必要はありません。

一つだけ気をつけたいのは、何でも人に任せたり上申したりして済ませないことです。自分の判断できる範囲の案件まで上に回すと、判断を避けたことになります。

段取りの型が手に入れば、案件の分野が変わっても選ぶ筋道は変わりません。どの案件から手を付けるかは、優先順位の付け方で扱っています。

本サイトが提供しているインバスケット演習では、架空の会社の案件ごとに、組織図の人物と処理から誰に何をさせるかを選んで答えます。提出するとその場で採点され、模範解答と根拠の解説が返ってくるので、自分の選び方のどこがずれていたかがすぐに分かります。まずは登録なしで採点まで解ける演習1から試してみましょう。

社内の形式と市販の問題集が違っても練習になるのか

なります。形式が違っても、段取りの型を練習する意味は変わらないと考えています。

社内の試験が何分で何件なのか、答案を手書きするのか、回答用紙の様式はどうか。

こうした違いは本番の手応えに関わります。それでも、事実を確かめ、担当を決め、期限を切り、上に伝えるという段取りは、どの形式の問題でも同じように使うことができます。

形式の違いは、試験の前に一度、社内と同じ時間で通して解けば済みます。インバスケットの基本の考え方はインバスケットの基本にまとめています。

試験までに何をするか

社内の形式を確かめ、持ち場の外の案件を中心に解き、模範と比べる。これを繰り返します。

  1. 社内で、インバスケットの時間と案件の数、論文や面接との組み合わせを確かめる。
  2. 自分の持ち場の外の案件を、時間を区切って解く。
  3. 選んだ答えを、事実の確認・担当・期限・上への報告の四つに沿っているかで見直す。
  4. 試験の前に、手元に過去問があれば本番と同じ時間で一度通す。

独学でいちばん困るのは、自分の答えが合っているのか確かめられないことです。インバスケットが難しいと感じる理由はインバスケットが難しい理由でも扱っています。