「仕事はできるほうなのに、なぜこれだけ手が止まるのか」。模擬問題を一度通したあと、そう考えることもあります。
インバスケットの難しさは、頭の良し悪しから来るものではありません。原因は三つに分けることができます。時間が足りないこと、自分の業種と違う案件で処理を決められないこと、自分の答えが合っているか確かめられないことです。
三つとも、試験の作りと練習の環境から生まれています。やり方を変えれば越えることができます。
なぜ時間内に終わらないのか
全部の案件を同じ深さで読んでいるからです。
インバスケットは、制限時間の中で架空の人物になりきり、多数の案件をさばく試験です。時間や案件の数は会社ごとに違います。どの形でも、一件ずつ丁寧に読んで丁寧に考えれば、終わらない量が渡されます。
この量は「全部はやらずに選べ」という出題だと読むと、解き方が決まります。読む速さを上げても、全件に同じ力をかける限り時間は足りません。
最初に全件の件名と差出人だけを見て、深く読む案件を決める。残りは処理を手早く選んで済ませる。これだけで、時間の使い方は大きく変わります。
配分の考え方は時間配分の記事で扱っています。
なぜ自分の業種と違う案件で手が止まるのか
求められているのが業務の知識より、誰に何をさせるかの段取りだからです。
たとえば技術職の人が、取引先からの苦情や営業の数字の案件を読んで「この分野は分からない」と手が止まったとします。しかし、管理職の答えに要るのは、その分野の正しい処置を自分が知っていることとは違います。事実を確かめる人と動く人を選ぶことです。
仮に、架空の取引先から納期遅れの苦情メールが届いたとします。選ぶべきは「営業課の主任に、先方へ事実を確かめさせ、報告させる」という処理です。業界の知識が無くても、この処理は選ぶことができます。
ただし、知らない業界の言葉が並ぶと読むだけで時間がかかることは残ります。練習で減りますが、本番でゼロにはなりません。
なぜ答えが合っているか分からないのか
独学では、自分の答えのどこがずれたのかを判定する手段が無いからです。
手元の問題集を解いても、自分の選んだ答えが何点なのかは分かりません。
模範解答が付いていれば、自分の選んだ順位や処理と並べることはできます。難しいのはその先です。
順位が一つずれたのは小さな差なのか、大きな失点なのか。「課長に相談する」を選んだ自分と、「主任に事実を確かめさせる」を選んだ模範は、どこで考えが分かれたのか。並べただけでは、それを一人で判定する物差しがありません。
三つの壁のうち、時間と業種の壁は、自分の工夫で少しずつ低くすることができます。答え合わせの壁は、模範を並べたうえで見る所を決めておかないと越えられないと考えています。
確かめる手段が無いまま練習を重ねると、困ったことが起きます。
一つは、ずれた癖がそのまま固まってしまうことです。たとえば、自分で片付けようとする答え方をしていても、解く回数が増えるほど、その選び方に慣れてしまいます。管理職の答えは「自分でやる」ではなく、「誰に、何をさせるか」です。
もう一つは、手応えの無さを自分の頭のせいにしてしまうことです。どこがずれたのかが見えないままでは、直しようがありません。
正解が一つに決まらないことと、良し悪しが無いことは別です。
どの案件を先に扱うか、誰に任せるか。放置したら誰が何を失うかで比べると、判断の筋が通ります。だから、模範との差を見ることには意味があります。
たとえば、自分は部品の品質不良の案件を3番目に回していたのに、模範では1番目だったとします。模範の根拠は「出荷が明後日に迫り、放置すれば顧客に不良品が届く」。
自分は「品質の問題は品質管理の担当が見ている」と考えて後回しにした。模範は、出荷の日付と顧客への影響を見て先頭に置いた。
違いは知識の量にはありません。案件のどの事実を重さの物差しにしたかにあります。
この差が分かれば、次の演習で同じ種類の案件を見たとき、迷わず順位を上げることができます。自分の答えの順位を眺めているだけでは、この気づきは出てきません。
任せ方の差も同じように見ることができます。自分は「自分で確認する」を選び、模範は「主任に確認させ、結果を報告させる」を選んでいた。並べれば、自分の答えに抜けていたのが任せる相手だと一目で分かります。
見比べるときに見るのは、案件の順位、根拠に挙げた資料、任せる相手の三つです。細かな違いがあっても、この三つが模範と合っていれば、判断の筋は合っています。
本サイトが提供しているインバスケット演習では、架空の会社の案件を解いて提出すると、その場で採点が返り、自分の選んだ答えを模範解答と根拠の解説に並べて見ることができます。どの案件で判断がずれたのかが、解き終えた直後に分かります。演習1は登録なしで採点まで解くことができるので、まず一度試してみましょう。
練習の値打ちは、解いた回数より、差を確かめた回数で決まります。
独学でどう越えるか
型を先に覚え、解くたびに模範との差を確かめることです。
- 型を覚える。全体を見てから読む深さを決める、誰に何をさせるかを選ぶ、報告を求める。土台はインバスケットの基本にまとめています。
- 時間を計って、演習を一つ通しで解く。
- 模範解答と並べ、順位がずれた案件と、自分で片付けようとした案件を書き出す。ずれやすい所はよくある失点と優先順位の付け方で確かめましょう。
- 書き出したずれに気をつけて、次の演習を解く。
解く数を増やす前に、演習一つごとに答え合わせを済ませましょう。何本もまとめて解いてから見直すと、どの判断をなぜそうしたのかを思い出せなくなります。
すでに一度受けて結果が出なかった人は、不合格のあとの立て直しから読むと、次に何を変えればよいかが見えてきます。
よくある質問
- インバスケットは地頭が良くないと受からないのですか?
- 地頭の良し悪しより、型の試験です。全部の案件を同じ深さで読まない、誰に何をさせるかを選ぶ、といった型は練習で身につけることができます。
- 業務経験が浅かったり、自分と違う業種の案件が出たりすると不利ですか?
- 案件の分野の知識は、答えの中心ではありません。分からない事実は、確かめる役の人に任せる処理を選べば、答えの筋は保つことができます。違う業種の案件で判断に迷いやすいことは練習で減りますが、本番でゼロにはなりません。
- どのくらい練習すればよいですか?
- 決まった回数はありません。解いた回数より、答え合わせをした回数を数えましょう。一つ解くたびに模範解答と見比べ、同じずれが出なくなるまで重ねるのが目安です。